乾癬・乾癬性関節炎と体重の関係|世界の視点からマンジャロを考える|長久手クリニック
本記事は、2026年6月にロンドンで行われている欧州リウマチ学会(EULAR)で話題となっている、乾癬性関節炎とチルゼパチド(商品名:マンジャロ)に関する研究を紹介するものです。
欧州リウマチ学会(EULAR)は、アメリカリウマチ学会(ACR)と並ぶ、リウマチ・膠原病領域の大きな国際学会です。そのEULAR 2026で、乾癬性関節炎の話題の一つとして注目されているのが、イキセキズマブ(商品名:トルツ)に、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)を併用した研究です。
ただし、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)は、2026年6月5日現在の日本では、乾癬や乾癬性関節炎に対する保険適応はありません。保険診療で使用できる適応は2型糖尿病です。本記事は、乾癬や乾癬性関節炎に対してチルゼパチド(商品名:マンジャロ)の使用をすすめるものではありません。
この記事でお伝えしたいことは、乾癬性関節炎では、体重や内臓脂肪が、皮膚や関節の炎症、治療効果に影響することがあるという点です。
チルゼパチド(商品名:マンジャロ)については、副作用や不適切使用など、注意すべき面が取り上げられることも少なくありません。もちろん、薬はよい面だけを見て使うものではなく、適応や安全性を確認しながら慎重に考える必要があります。
一方で、ロンドンで開催されているEULAR 2026では、乾癬性関節炎の患者さんに対して、体重や代謝への介入が治療成績に関係する可能性について、前向きな議論も行われています。薬の注意すべき一面だけではなく、このような前向きな研究が進んでいることも、患者さんにとって大切な情報だと考えています。
関節が痛い方にとって、体重管理は簡単ではありません。痛みがあって動きにくい、運動すると悪化する、疲れやすいという状況では、体重を減らすこと自体が難しくなります。体重管理がうまくいかないことは、決して努力が足りないという意味ではありません。
2026年6月3日から6月6日まで、アリウマチ学会(ACR)と並ぶ大きな国際学会である欧州リウマチ学会(EULAR)2026が、ロンドンにて開催されています。
以前であれば、海外の学会で発表された内容を知るまでには時間がかかりました。
しかし現在は、情報発信のスピードがとても速くなり、遠くイギリス・ロンドンで発表されたリウマチ・膠原病分野の話題も、ほぼリアルタイムで知ることができます。
その中で、乾癬性関節炎に関する話題の中心の一つとなっているのが、「体重」と「代謝」です。 乾癬性関節炎では、皮膚や関節の炎症だけでなく、体重、内臓脂肪、糖尿病、脂肪肝、高血圧、脂質異常症などが、病気の状態や治療効果に関係することがわかってきています。
今回注目されている研究では、乾癬性関節炎に対する生物学的製剤であるイキセキズマブ(商品名:トルツ)に、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)を併用することで、関節症状の改善と体重減少の両方にどのような影響があるかが検討されました。
EULAR 2026では、肥満または過体重を伴う乾癬性関節炎の患者さんを対象に、生物学的製剤であるイキセキズマブ(商品名:トルツ)に、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)を併用した研究が報告されています。
この研究では、イキセキズマブ(商品名:トルツ)単独の治療と、イキセキズマブ(商品名:トルツ)にチルゼパチド(商品名:マンジャロ)を併用した治療が比較されました。 対象となったのは、肥満または過体重があり、これまでの生物学的製剤で十分な効果が得られなかった乾癬性関節炎の患者さんです。
主要な評価項目は、36週時点で「関節症状がしっかり改善し、かつ体重が10%以上減少した方」の割合でした。 結果は、イキセキズマブ(商品名:トルツ)とチルゼパチド(商品名:マンジャロ)の併用群で31.7%、イキセキズマブ(商品名:トルツ)単独群で0.8%と報告されています。
また、関節症状の改善を示すACR50という指標でも、併用群で33.5%、単独群で20.4%と、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)を併用した群の方が高い結果でした。 年齢、性別、BMI、過去の治療歴による明らかな差は大きくなく、全体として一貫した傾向がみられたとされています。
安全性については、新たな大きな安全性の問題は報告されていません。
一方で、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)を併用した群では、吐き気、便秘、下痢などの胃腸症状は増える傾向がありました。
この研究は、乾癬性関節炎では関節の炎症を抑える治療だけでなく、体重や代謝に介入することが治療成績に関係する可能性を示した点で注目されています。
また、EULAR 2026では、GLP-1受容体作動薬が乾癬性関節炎に与える影響について、「体重減少だけで説明できるのか、それ以外の作用もあるのか」という点も話題になっています。
OP074では、GLP-1受容体作動薬を使用している乾癬性関節炎患者さん74名と、BMIや疾患活動性をそろえた対照群74名が比較されました。 BMIの変化を調整した後も、cDAPSA、DAPSA、痛みなどの患者さんが実感しやすい指標では改善傾向がみられた一方で、腫脹関節数、圧痛関節数、CRPでは明らかな改善は示されませんでした。
つまり、GLP-1受容体作動薬が乾癬性関節炎にどのように影響するのかは、まだ完全にはわかっていません。 体重減少による効果だけでなく、痛みや代謝、炎症に関わる別の仕組みがある可能性もあり、今後は作用機序を確認する研究が必要です。
ただし、この結果だけで「チルゼパチド(商品名:マンジャロ)が乾癬性関節炎の治療薬になった」と考えるのは早すぎます。 先ほど述べた通り、日本ではチルゼパチド(商品名:マンジャロ)は乾癬や乾癬性関節炎に対する保険適応はありません。 あくまで、肥満や代謝異常を伴う方において、体重・代謝への介入が関節炎の治療成績にも関係する可能性がある、という理解が大切です。
乾癬は、皮膚に赤みやカサカサした皮疹が出る病気です。 ただし、乾癬は皮膚だけの病気ではありません。
一部の方では、関節の腫れや痛み、指全体の腫れ、足の裏やアキレス腱の痛み、腰や背中の痛みなどを伴うことがあります。 これを乾癬性関節炎といいます。
乾癬性関節炎の症状や治療薬について詳しく知りたい方は、 乾癬性関節炎とは?6つの症状と治療薬の選び方 もあわせてご覧ください。
乾癬性関節炎では、体重や内臓脂肪が関節や皮膚の炎症に影響することがあります。 体重が増えると、膝や足、腰などにかかる負担が増えるだけでなく、体の中で慢性的な炎症が起こりやすくなります。
そのため、乾癬性関節炎では、関節の炎症を抑える治療とあわせて、体重や代謝の状態を確認することが大切です。 これは単に「やせましょう」という話ではありません。 体重や内臓脂肪が、病気の勢いや治療効果に関わる可能性があるためです。
ポイント
乾癬性関節炎では、体重管理は見た目の問題ではありません。 関節を守ること、炎症を抑えること、将来の生活習慣病や心血管病を減らすことにつながる可能性があります。
体重管理が大切と聞くと、「結局は自分の努力不足なのでは」と感じてしまう方もいるかもしれません。 しかし、決してそのような意味ではありません。
乾癬性関節炎では、膝、足の裏、アキレス腱、腰、手指などに痛みが出ることがあります。 変形性関節症を合併している方では、膝や股関節の痛みで歩くこと自体がつらい場合もあります。
痛みがある方にとって、運動で体重を減らすことは簡単ではありません。 「歩きましょう」と言われても、歩くと痛い。 「運動しましょう」と言われても、運動すると悪化する。 そのような方は少なくありません。
痛み、炎症、疲れやすさ、睡眠の質、仕事や家事の忙しさなどが重なると、体重管理はとても難しくなります。 したがって、痛みを抱えるなかで体重が減らないということは、決して努力が足りないという意味ではありません。
長久手クリニックでは、乾癬性関節炎の関節症状とあわせて、体重や代謝に関わる内科的な背景も確認しています。 受診を希望される場合は、予約ページをご利用ください。
チルゼパチド(商品名:マンジャロ)は、GLP-1だけでなくGIPにも作用する、GIP/GLP-1受容体作動薬です。 食欲、血糖、体重に関係する薬で、2型糖尿病の治療薬として使用されています。
今回の記事で大切なのは、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)を単独で強調することではなく、乾癬性関節炎では体重・代謝も含めて治療を考える必要があるという点です。
糖尿病治療としてのチルゼパチド(商品名:マンジャロ)やSGLT2阻害薬については、 糖尿病のご相談は長久手クリニックへ|マンジャロ・SGLT2阻害薬で体重と腎臓を守る治療 でも解説しています。
チルゼパチド(商品名:マンジャロ)を使用中の食事や水分摂取については、 マンジャロ使用中の食事と水分摂取|糖尿病治療と肥満治療の注意点 も参考にしてください。
長久手クリニックでは、乾癬性関節炎を「関節だけの病気」としてではなく、全身の病気として診療しています。 関節の腫れや痛み、皮膚症状だけでなく、体重、血糖、血圧、脂質、脂肪肝、腎機能、心血管リスクも含めて確認します。
体重管理は、見た目の問題ではありません。 炎症を抑え、関節を守り、生活習慣病や将来の合併症を減らすための大切な治療の一部です。
ただし、関節が痛い方にとって体重管理が難しいことも、私たちはよく理解しています。 「努力が足りない」と考えるのではなく、痛みや炎症を抑えながら、その方に合った現実的な方法を一緒に考えることが大切です。
今回のEULAR 2026での報告は、乾癬性関節炎において、関節の炎症を抑える治療と体重・代謝への治療をあわせて考える重要性を示したものといえます。 ただし、体重減少そのものによる効果なのか、GLP-1受容体作動薬などが持つ別の作用も関係するのかは、まだ研究段階です。 今後の研究の積み重ねも確認しながら、患者さんごとの病状や背景に合わせて、現実的な治療を考えていくことが大切です。
日本リウマチ学会認定リウマチ専門医・指導医、日本腎臓学会認定腎臓専門医が、乾癬性関節炎、関節リウマチ、膠原病、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、脂質異常症を全身の病気として診療します。



