若いのに健診でLDLコレステロールが高い、薬は必要?|長久手クリニック
「まだ若いのですが、健康診断でLDLコレステロールが高いと何度も指摘され続けています」
「症状はありません。薬を飲み始めた方がよいのでしょうか。それとも、まだ飲まなくてもよいのでしょうか」
健康診断の結果をもとに、このようなご相談をよく伺います。
これはとても難しい問題です。若い方のLDLコレステロール治療には、すべての方に共通する一つの正解があるわけではありません。
しかし、2026年の米国ガイドラインや国際的な論文雑誌のJAMAの解説では、今回のLDLコレステロールの数値だけでなく、若い頃から高いLDLコレステロールにさらされ続ける「LDLの蓄積」を重視する考え方が示されています。
若い方では10年以内に心筋梗塞などを起こす確率が低くても、その先には長い将来があります。
そのため海外では、10年先だけでなく30年先までを見据え、若い方でも長期的なリスクを踏まえて薬物治療を検討する対象を広げる流れになっています。
薬を使用した方がよいことが比較的明確な方がいる一方で、それ以外の若い方では、薬を始めるべきか、生活習慣を整えながら経過を見るべきか、簡単には決められないです。
この記事では、正解がない中で、どのような情報をもとに治療方針を一緒に考えるのかを説明します。
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下の画像の右側は、80歳の患者さんに認められた大動脈の石灰化です。左側の正常例と比べると、血管の壁が白く石灰化していることが分かります。
LDLコレステロール治療の目的は、現在の採血結果を正常範囲へ入れることだけではありません。
将来、このような動脈硬化へ進んでいく可能性がある方を、症状が出る前に予測し、必要な方へ治療介入することが求められています。
左は正常例、右は80歳の患者さんに認められた大動脈の石灰化です。画像は患者さんの許可を得て掲載しています。
若い方のLDL治療には、一つの正解がありません
LDLコレステロールが高い方の中でも、薬を使用した方がよいことが比較的明確な方がいます。
このような方では、将来の心筋梗塞などを防ぐため、生活習慣の見直しと並行して薬物治療を考えます。
一方で、これまで動脈硬化性疾患を起こしたことがなく、家族性高コレステロール血症にも明確には当てはまらない若い方では、薬を飲むべきかどうかの判断はとても難しくなります。
LDLコレステロールの値だけを見て、「この数値なら全員が薬を飲む」「若いからまだ薬は必要ない」と単純に決めることはできません。
誰が将来動脈硬化していくのかを、正確に予測することは難しい
現在、LDLコレステロールが高い若い方のうち、どの方が自然経過の中で将来強い動脈硬化へ進み、どの方が大きな病気を起こさずに経過するのかを、若い時点で正確に予測することは困難です。
将来の心筋梗塞や狭心症を防ぐには、病気を起こした後ではなく、その前に治療を始める必要があります。しかし、予防の段階では、その患者さんが将来実際に病気を起こすかどうかはまだ分かりません。
そのため、治療しなければならない方を見逃さないことと、必要性がはっきりしない方へ一律に薬を勧めないことの両方を考えなければなりません。
日本では10年先、海外では30年先まで考える時代へ
日本では、久山町研究をもとに、今後10年間に冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞を起こす確率を推定する方法が用いられています。
しかし、若い方は10年間の発症確率が低く計算されやすく、40歳未満の方は久山町スコアの対象にも含まれていません。
一方、海外では10年を超えて30年先までのリスクを評価し、若い頃から高いLDLコレステロールにさらされ続けるコレステロールの蓄積も視野に入れて、治療を検討する対象を広げています。
2026年の米国ガイドラインでは、PREVENTというリスク予測式を用いて、10年間と30年間のリスクを評価する考え方が示されています。
ただし、PREVENTは米国成人のデータをもとに作られたリスク予測式です。海外のデータから計算された発症確率を、そのまま日本人に当てはめることはできません。
だからこそ、完全な正解がない中で、どのように治療方針を一緒に考えるかが大切になります。
若い方では10年先だけでなく、長い将来を考える
若い方では、今後10年間だけを見ると、心筋梗塞や脳梗塞を起こす確率は低く計算されることが多くなります。
しかし、若い方には、その先にも長い時間があります。現在の10年リスクが低いことだけを理由に、将来の動脈硬化リスクまで低いとは言い切れません。
大切なのは、過去の健診結果を何年分も診察室に並べることではなく、現在の状態がこのまま長い将来にわたって続いた場合に、血管へどのような影響が蓄積していく可能性があるのかを考えることです。
早い段階から考えることは、若い方全員へすぐに薬を勧めることではありません。今は生活習慣を見直して経過を見るのか、追加の検査を判断材料にするのか、薬を使用するのかを相談します。
甲状腺機能低下症が隠れていないか確認する
LDLコレステロールが高くなる原因は、食事や遺伝的な体質だけではありません。
甲状腺機能低下症があると、LDLコレステロールが高くなることがあります。
甲状腺機能が低下している場合は、甲状腺の治療によってLDLコレステロールが改善することがあります。また、甲状腺機能低下症がある状態では、スタチンによる筋肉の副作用にも注意が必要です。
そのため、LDLコレステロール高値を指摘されている方では、甲状腺機能低下症がないかを確認します。
甲状腺機能低下症など、別の病気によってLDLコレステロールが上がっている場合があります。脂質異常症の薬だけを開始するのではなく、必要な検査を行ったうえで治療方針を考えます。
家族性高コレステロール血症を疑う場合
若い方のLDLコレステロール高値では、家族性高コレステロール血症が隠れていないかを確認することが重要です。
日本では、未治療時のLDLコレステロールが180mg/dL以上の場合、まず家族性高コレステロール血症の可能性を考えます。
ただし、180mg/dL以上なら全員が家族性高コレステロール血症という意味ではありません。反対に、180mg/dL未満なら完全に否定できるという意味でもありません。
未治療時のLDLコレステロール、アキレス腱などの所見、家族のLDLコレステロール高値、若くして心筋梗塞や狭心症を起こした家族がいないかなどを合わせて判断します。
判断の後押しになるLp(a)の血液検査
Lp(a)は、LDLコレステロールとは別に、動脈硬化や大動脈弁狭窄症のリスクと関係する脂質関連の項目です。
Lp(a)の値は主に遺伝的に決まり、生涯を通して大きく変化しにくいとされています。
家族歴などを確認しても薬を始めるべきか判断に迷う場合には、遺伝的なリスクを考える材料としてLp(a)を測定することがあります。
当院では、診療上必要と判断した場合にLp(a)を測定します。
Lp(a)も、薬を飲むかどうかを自動的に決める検査ではありません。通常のLDLコレステロールだけでは分かりにくいリスクを考え、治療判断を後押しする材料として使用します。
関節リウマチなど慢性炎症性疾患がある方へ
関節リウマチなどの慢性炎症性疾患がある方では、一般の方よりも動脈硬化性心血管疾患のリスクが高くなることが分かっています。
2026年の米国ガイドラインでは、関節リウマチ、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス、血管炎、炎症性腸疾患、脊椎関節炎などを、動脈硬化リスクを高める背景として扱っています。
これらの病気では、一般的なリスク計算だけでは将来のリスクを低く見積もってしまうことがあります。また、関節リウマチや全身性エリテマトーデスでは、比較的若い時期から冠動脈の石灰化が認められることがあるとされています。
関節リウマチがある方では、LDLコレステロールの数値が同じでも、慢性的な炎症がない方とまったく同じようには考えません。
関節リウマチがあること自体を、脂質を下げる薬をより積極的に検討する材料の一つとして考えます。
判断に迷う場合にCTで動脈硬化を確認する
採血結果や家族歴などを確認しても、若いうちから薬を開始するべきか判断に迷う場合があります。
このように治療の判断が難しい方では、CTで冠動脈の石灰化を確認することが、意思決定の重要な鍵になってきています。
2026年の米国ガイドラインでは、まず10年・30年リスクを計算し、患者さんごとの背景を加えて考え、それでも薬を開始するか判断に迷う場合に、冠動脈石灰化を用いてリスクを再分類する流れが示されています。
冠動脈の石灰化があることは、症状が出る前から冠動脈に動脈硬化が蓄積していることを示す材料になります。一方、石灰化が見られない場合には、少なくとも石灰化した動脈硬化の蓄積が多くないことを確認でき、薬をすぐに開始するかを再検討する材料になることがあります。
JAMAに発表されたフラミンガム研究の解析では、冠動脈石灰化が強い方ほど、その後の心血管イベントが多く認められました。一方、スタチン治療の対象と判定された方の中でも、冠動脈石灰化が認められない方は低リスクの集団として識別されました。
この研究は、冠動脈石灰化が、特に薬を開始するか迷いやすい中間的なリスクの方で、治療判断を補助する重要な情報になることを示しています。
そのため当院でも、医学的に必要と判断した場合にはCTを撮影し、心臓を栄養する冠動脈や大動脈の壁に石灰化があるかを確認することがあります。
当院では実際のCT画像を患者さんにも見ていただき、冠動脈や大動脈に石灰化が見られるかを、ほかの検査結果と合わせて治療判断の材料にします。
心臓を栄養する冠動脈に認められた石灰化です。画像は患者さんの許可を得て、個人情報を伏せて掲載しています。
Lp(a)が高いことや、CTで石灰化が確認されたことだけを理由に、自動的に薬が決まるわけではありません。
また、CTで石灰化が見られなければ、動脈硬化が完全にないという意味でもありません。特に若い方では、まだ石灰化していない動脈硬化が存在する可能性があります。
Lp(a)とCTは、正解を出す検査ではなく、正解がない中で治療方針を考えるための材料です。
検査結果と画像を見ながら一緒に決める
薬を始めるかどうかは、採血結果だけを見て医師が一方的に決めるものではありません。
当院では、検査結果をご説明し、CTを行った場合には、冠動脈や大動脈の石灰化を患者さんご自身にも画像で確認していただきます。
薬を使用する利点、今は生活習慣を整えて経過を見る選択、薬を使用しない場合に残る可能性のある長期的なリスクをお伝えします。
これらの結果と、特にCTで確認できる実際の血管の状態も含めて、患者さんご自身が納得できる治療方針を一緒に考えます。
薬を始めると一生飲み続けるのでしょうか
遺伝的な体質などによってLDLコレステロールが高い場合、薬を中止すると数値が元へ戻ることが多いため、長期的な治療になることがあります。
ただし、一度始めたら何があっても同じ薬を一生飲み続けるという意味ではありません。治療効果、副作用、生活習慣の変化、年齢、ほかの病気、患者さんの希望を確認し、薬の種類や量、治療方針を見直します。
通院や処方日数にも配慮します
薬を開始した直後は、治療効果や副作用を確認するため、早めに再診していただく場合があります。
その後、数値と体調が安定し、医学的に長期処方が可能と判断できる場合には、通院の負担を減らせるよう、長久手クリニックでは処方日数にも最大限配慮します。
処方日数は、薬の種類、治療開始からの期間、検査結果、副作用の有無などによって異なります。
長久手クリニックでの診療
若い方にとって、症状がない時点で薬を始めることに迷いがあるのは自然なことです。
「若いから大丈夫」と放置するのでも、「高いから薬を飲みましょう」と一方的に決めるのでもなく、将来どのような動脈硬化へ進む可能性があるのかを考えます。
必要に応じて甲状腺機能、家族性高コレステロール血症の可能性、Lp(a)を確認します。関節リウマチなど慢性炎症性疾患がある方では、その背景も動脈硬化リスクとして考えます。それでも判断が難しい場合には、CTで冠動脈や大動脈の石灰化を確認し、治療方針を考える材料にします。
薬を飲む必要があるかについて、すべての方に共通する一つの正解があるわけではありません。必要に応じてLp(a)やCTを判断材料として、治療方針を一緒に考えます。
今回の健診結果とお薬手帳があればご持参ください。
LDLコレステロール・健診異常の診療予約 LDL高値を指摘され続け、薬が必要か迷っている方まとめ
浅井 昭雅(医師・博士(医学)・日本腎臓学会認定腎臓専門医)




