eGFRスロープで腎臓の寿命を予測する 30年後の腎臓を守るのは今かもしれません|長久手クリニック 内科・腎臓内科・リウマチ科
長久手クリニック 内科・腎臓内科・リウマチ科 浅井 昭雅
日本腎臓学会認定腎臓専門医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医・指導医、博士(医学)
「健康診断で腎臓の数値(eGFR)が少し低いと言われた。でも、症状はないし、大丈夫だよね?」
しかし、「eGFRスロープ」を見ると、30年後の腎臓を守るのが「今」なのかもしれないとわかります。高齢化が進む現代、今の時代はなかなか“ぽっくり逝く”というのは難しくなっています。自分の寿命が尽ける前に腎臓の寿命が尽きてしまうと、そこからは透析とともに生きる必要があります。
慢性腎臓病の恐ろしさは、一度悪化すると引き返しができない(不可逆的である)こと、そしてかなりの末期になるまで自覚症状がほとんど出ないことにあります。
今回は、「京都府版eGFRプロットシート」を使い、ある40歳の方の架空症例を通して、30年後の運命を変える方法を具体的に解説します。
「点」ではなく「線」で見ると、未来が予測できる
腎臓の寿命を測る基準として、血液検査の eGFR という数値があります。しかし、1回ずつの結果に一喜一憂しても、本当の危機には気づけません。大事なのは「eGFRスロープ(低下の角度)」です。
【架空症例:40歳男性、蛋白尿(-)】
2020年から最新までのデータをプロットしてみましょう。実は、測定した「場所」や「状況」によって数値は大きく揺れ動きます。ここに「点の罠」が隠されています。
| 年 | eGFR数値 (mL/min/1.73m²) | 備考 |
|---|---|---|
| 2020年 | 69.0 | 健康診断 |
| 2021年 | 67.0 | 健康診断 |
| 2022年 | 62.0 | 健康診断 |
| 2023年 | 62.0 | 健康診断 |
| 2024年 | 59.5 | 健康診断 |
| 2025年 | 55.0 | 健康診断 |
| 2026年(最新) | 61.5 | 当院(クリニック) |
2025年から2026年で数値が「6.5」も改善?
2025年の「55.0」という数値を見て絶望し、2026年の「61.5」を見て安心する……。実は、これこそが腎臓病診療における最大の注意点です。
健康診断(2025年)では、前日の夜から食事を抜き、当日の飲水も制限されることが多いため、体は「やや脱水」の状態になりがちです。脱水状態では、腎臓への血流が一時的に減り、数値が実際よりも低く出ることがあります。一方、通常の診療時(2026年)は適切な水分摂取があるため、数値が「本来の実力」に近いところまで戻ります。
また、eGFRは筋肉から出る老廃物「クレアチニン」を元に算出されるため、運動量や筋肉量でも変動します。※今回の症例では、筋肉量の影響はないものとしています。
このように、腎機能は体調、水分量、環境といった状況で数%〜10%程度は簡単に変動します。だからこそ、単発の「点」の結果に一喜一憂するのではなく、数年分のデータを繋いだ「線(スロープ)」で、着実に機能が失われていないか評価することが、正しい診断には欠かせません。
・透析開始時期の予測:2054年3月28日
最新の数値が「61.5」に回復したとしても、全体のトレンド(スロープ)を見ると、2020年からの右肩下がりの線は止まっていません。
このままのペースでは、2054年3月――今(2026年)から約28年後、68歳に透析が必要になる可能性がある……。プロットシートは、単発の「回復したように見える数値」に隠れた、このシビアな真実を教えてくれます。
「症状がない」からこそ、今自分を変える
多くの病院で言われる「悪くなったら来てください」という言葉。これは数値が 50 や 40 に下がってからという意味ではありません。なぜなら、自覚症状が出てからでは、すでに引き返しができないほど腎臓が傷んでいることが多いからです。
本当のタイミングは、「グラフの線が右肩下がりになった(スロープが急になった)と気づいた時」です。症状がない今のうちに、自分自身の生活を変えたり、必要な投薬を開始したりしなければ、30年後の透析は防げません。
また、数値(機能)が低い原因を画像診断(CTなど)で評価し、腎臓の「形」から早期に異常を見つけることも、街のクリニックにおける大切な役割だと考えています。
腎機能を守る治療戦略 ― 食事と薬の適切な組み合わせ
腎臓を守るための大原則は、「徹底した食事療法(減塩)」を土台に据え、適切な薬を組み合わせることです。
・食事(徹底した減塩): 全ての治療の基本。腎臓のフィルターにかかる負担を根本から下げます。・血圧・LDLコレステロール・糖尿病の薬: 後の項目で挙げる目標数値を達成するために欠かせません。
・SGLT2阻害薬: 近年登場した、腎臓を直接保護する効果が期待できる新しい選択肢です。
どんなに良い薬を飲んでも、塩分という「負担」が多すぎては効果が相殺されてしまいます。逆に、減塩を頑張っていても、必要な血圧管理などが不十分では坂道は止まりません。食事で「攻め」の姿勢を作り、薬で「守り」を固める。この両輪が30年後の未来を変える鍵となります。
30年後の自分を守るための「5つの絶対目標」
✅ 血圧:130/80 mmHg 以下
✅ 血糖:HbA1c 5.6 % 未満
✅ 塩分:1日 6 g 未満(長久手クリニックではスポット尿による摂取量推定で具体的指導を行います)
✅ 脂質:LDL コレステロール 120 mg/dL 未満
✅ BMI 25 未満
✅ 習慣:禁煙と適度な有酸素運動
長久手クリニックの目標は「30年後の透析」を防ぐこと
街のクリニックにおける腎臓病診療の最も難しいところは、「全く症状がない元気な方に、いかに将来のことを考えていただき、対策を始めていただくか」にあると考えています。
40歳の今の選択が、68歳、さらには80代の自分の生活を左右します。今の時代、医療の進歩で寿命は延びていますが、その分「健康な臓器」をいかに維持するかが問われています。透析という引き返しのできない未来を避けるためには、今のスロープを緩やかにする「攻め」の姿勢が必要です。
【受診される方へのお願い】
「未来の線(スロープ)」を正確に描くためには、過去のデータが多ければ多いほど精度が上がります。直近の結果だけでなく、過去の健康診断の結果をできるだけ多く(3年分以上)メモにしてお渡しください。古い結果の中に、あなたの本来の腎機能を知るヒントが隠されています。捨てずに取ってある方は、ぜひすべてのデータを書きだしてもってきてください。
長久手クリニック 内科・腎臓内科・リウマチ科
浅井 昭雅(あさい あきまさ) 浅井 奈央(あさい なお)
・日本リウマチ学会認定リウマチ専門医・指導医
・日本腎臓学会認定腎臓専門医
〒480-1111 愛知県長久手市山越115番地
駐車場完備(日進市・名古屋市名東区・尾張旭市・瀬戸市方面からもアクセス便利です)



