関節リウマチの生物学的製剤8種類|自己注射・4週間の費用・選び方|長久手クリニック
「生物学的製剤は種類が多くて、何がどう違うのか分からない」
関節リウマチの生物学的製剤は、薬の名前を8種類並べて覚えるより、まず「どのグループの薬を、実際にどのように使っているか」を見た方が分かりやすいと思います。
そこでこの記事では、最初に長久手クリニックで実際に処方している薬の割合と、メトトレキサート(MTX)の同時処方率をお示しします。
そのうえで、TNFを抑える薬と、TNF以外を標的にする薬の考え方を説明し、当院で中心的に使用しているアダリムマブBS、エタネルセプトBS、トシリズマブ、アバタセプトから順に紹介します。
当院では、メトトレキサートを使用できる患者さんに生物学的製剤を初めて導入する場合、病状や合併症などから別の薬を優先すべき理由がなければ、まずアダリムマブBSまたはエタネルセプトBSを検討しています。
効果が不十分な場合には、同じTNFのグループ内で変更することもあれば、IL-6を抑える薬やT細胞の働きを調節する薬へ変更することもあります。
自己注射に不安がある方には、ご自身で注射できる自信がつくまで、院内で看護師の見守りのもと練習していただけます。80歳代の方でも、ご自身で注射されています。
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生物学的製剤はどのようなときに使うか
関節リウマチでは、メトトレキサートなどの抗リウマチ薬で治療しても関節の腫れや炎症が残り、治療目標に届いていない場合に、生物学的製剤を検討します。
EULARの「関節リウマチ治療推奨2025 update」でも、メトトレキサートを含む初期治療で十分な効果が得られない場合には、生物学的製剤へ治療を進める流れが示されています。[参考資料1]
JAK阻害薬も関節リウマチに使用する薬ですが、生物学的製剤とは別の内服薬です。本記事では、皮下注射型の生物学的製剤を中心に説明します。
関節リウマチ治療全体の順序については、関節リウマチ治療の流れ|最新の推奨にもとづく解説をご覧ください。
長久手クリニックの処方割合とMTX同時処方率
当院では、関節リウマチに使用できる皮下注射型生物学的製剤8種類すべてに処方実績があります。
2025年7月7日から2026年7月6日までの約1年間に、当院で関節リウマチに対して処方した皮下注射型生物学的製剤の処方割合をまとめました。
当院の約1年間の処方データから算出した処方構成比です。患者さんの人数の割合や、薬剤の効果・安全性の順位を示すものではありません。
当院の処方データでみたメトトレキサートの同時処方率
生物学的製剤の種類によって、メトトレキサート(MTX)を同時に処方している割合にも違いがありました。
当院における2025年7月から2026年7月までの処方データでは、TNF阻害薬でMTXが同時に処方されていた割合は70.7%でした。
一方、オレンシア、アクテムラ、ケブザラなど、TNF以外の生物学的製剤では、MTXが同時に処方されていた割合は16.8%でした。
今回の集計では、TNF阻害薬はMTXと同時に処方されている割合が高く、TNF以外の生物学的製剤では、MTXを併用せずに処方されている割合が高い結果でした。
ただし、TNF阻害薬の集計には、乾癬性関節炎に対して使用したアダリムマブBSの処方が一部含まれています。当院では、乾癬性関節炎にアダリムマブBSを使用する場合、MTXを併用していないことが多いため、この点もTNF阻害薬のMTX同時処方率に影響しています。
したがって、この数値は関節リウマチ患者さんだけを対象としたMTX併用率ではなく、薬のグループだけによる違いを示すものでもありません。
また、MTXを併用している治療の方が優れている、あるいはMTXを使用していない治療の効果が弱いという意味ではありません。実際には、対象となる病気、MTXを併用できるか、年齢、感染症のリスク、肺の状態、これまでの治療効果や副作用などを確認して薬を選択します。
MTX同時処方率は、患者さんの人数ではなく、受診・処方機会を単位として算出しています。詳しい集計方法は記事末尾に記載しています。
TNFを抑える薬と、TNF以外を標的にする薬
生物学的製剤を簡単に分けると、TNFという炎症物質を抑えるグループと、TNF以外の仕組みを標的にするグループがあります。TNF以外のグループには、IL-6という炎症物質を抑える薬と、T細胞の働きを調節する薬があります。
メトトレキサートを使用できる患者さんでは、少量でもメトトレキサートを併用した方が、薬に対する抗体ができにくくなり、効果を維持しやすい場合があります。
メトトレキサートを併用しにくい場合にも選択肢になりやすいグループです。TNFを抑える薬より上、あるいは下という意味ではなく、作用する場所が異なります。
当院では生物学的製剤をどのように選ぶか
どのグループを選ぶかは、①メトトレキサートを併用できるか、②年齢、感染症のリスク、肺の状態、③費用、④注射の間隔、⑤妊娠に関する希望をあわせて考えます。
メトトレキサートを使用できており、別の作用機序を優先すべき理由がなければ、当院ではまずこの2剤を考えます。費用を抑えやすいためです。
アダリムマブBSからエタネルセプトBSへ、あるいはエタネルセプトBSからアダリムマブBSへ変更することがあります。
メトトレキサートを併用しにくい場合、同じグループ内の変更では効果が期待しにくい場合、感染症や合併症を考慮したい場合には、トシリズマブやアバタセプトなどへ変更します。
トシリズマブBSの皮下注オートインジェクターは承認されていますが、2026年7月15日時点では薬価基準に収載されていません。今後、費用面のメリットがある皮下注バイオシミラーを使用できるようになれば、TNFを抑える薬からトシリズマブBSへ早めにグループを変更するケースが増える可能性があります。
当院で中心となる4つの生物学的製剤
最初に3割負担の目安、その下に薬価(10割の金額)を記載しています。いずれも導入後の標準的な継続投与4週間分です。診察料、検査料、処方箋料、調剤料、在宅自己注射指導管理料などは含みません。
アダリムマブ
当院では、メトトレキサートを使用できる患者さんに生物学的製剤を初めて導入するとき、まず検討する薬の一つです。初回から使用できます。
関節リウマチだけでなく、乾癬や乾癬性関節炎などにも適応があります。当院では、乾癬や乾癬性関節炎に対してもアダリムマブを使用しています。
エタネルセプト
アダリムマブBSとともに、当院で初回導入時にまず検討する薬です。
1週間ごとの投与なので、体調不良や感染症が疑われるときに次の投与を見合わせやすい薬です。効果が安定した後は、患者さんの状態を確認しながら投与間隔の延長を検討しやすい面もあります。
25mg製剤もあるため、減量を検討しやすいことも特徴です。
トシリズマブ
先発品ですが、標準的な2週間隔で使用する場合、TNF以外の皮下注射製剤の中では比較的費用を抑えやすい薬です。メトトレキサートを併用しにくい場合にも選択肢になります。
IL-6を強く抑えるため、感染症があっても発熱やCRP上昇が目立ちにくい場合があります。咳、息苦しさ、食欲低下、普段と違うだるさなど、検査値以外の変化も確認します。
憩室炎の既往がある方では、腹痛、発熱、便秘などの便通異常にも注意します。悪性リンパ腫やがんの既往がある方でも、がんの種類や治療状況を確認したうえで、選択肢として検討しやすい場合があります。
アバタセプト
費用は高めですが、比較的安全性が高いとされています。高齢の方、感染症リスク、肺の状態、メトトレキサートを併用できるかなどを考えて選択します。
間質性肺疾患を合併している方では、肺の状態を含めて慎重に選びます。オレンシアが間質性肺炎そのものを治療する薬という意味ではありません。
その他の皮下注射型生物学的製剤
次の4剤も当院で処方実績があります。最初から一律に選ぶ薬ではありませんが、注射間隔、妊娠に関する希望、これまでの治療歴、用量調整などによって大切な選択肢になります。
TNFを抑える薬。通常4週間に1回です。注射が苦手な方や、注射回数を少なくしたい方で候補になります。
薬価(10割の金額):100,813円/4週間
100mgを使用する場合は、同日に50mg製剤を2本使用するため、費用も約2倍になります。
TNFを抑える薬。胎盤への移行がごく少ないことが報告されており、今後妊娠を予定している方や、妊娠中も抗TNF治療の継続が必要な方では選択肢になりやすい薬です。
薬価(10割の金額):107,884円/4週間
上記は導入後の維持期です。導入時は初回、2週後、4週後にそれぞれ400mgを使用するため、導入期の費用は高くなります。
TNFを抑える薬。通常4週間に1回使用します。投与間隔やこれまでの治療歴を踏まえて選択します。
薬価(10割の金額):111,521円/4週間
IL-6を抑える薬。通常2週間に1回です。メトトレキサートを併用しにくい場合にも選択肢になります。
薬価(10割の金額):91,192円/4週間
状態により150mgへ減量する場合があります。150mgを4週間に2本使用する場合は、3割負担約20,700円、薬価(10割)68,888円です。
生物学的製剤が効かない場合の薬剤変更
生物学的製剤は、最初に選んだ1剤がすべての患者さんに合うわけではありません。十分な効果が得られない、最初は効いていたものの効果が弱くなった、副作用や感染症のため継続しにくいといった場合には、別の生物学的製剤へ変更します。
当院では、アダリムマブBSとエタネルセプトBSの間など、まず同じTNFを抑えるグループの中で変更することがあります。
一方で、同じグループ内で変更しても効果が期待しにくい場合、副作用がグループに共通すると考えられる場合、メトトレキサートを併用しにくくなった場合などには、IL-6を抑える薬やアバタセプトへグループを変更します。
2026年に発表された、約20年間にわたる関節リウマチ患者さんのリアルワールドデータでは、生物学的製剤やJAK阻害薬などの高度な治療を開始した方の約11%が、3種類目の治療薬を必要とする段階に到達していました。[参考資料2]
薬を変更することは、最初の薬剤選択が間違っていた、あるいは治療に失敗したという意味ではありません。効果や副作用を確認しながら、その患者さんに合う薬を探していくこと自体が、生物学的製剤による関節リウマチ治療の一部です。
リウマチ薬が3種類目に…これって普通?最新論文が示す「お薬変更」のリアルと前向きな選択
生物学的製剤の導入前に確認すること
生物学的製剤は免疫の働きを調節するため、導入前には関節リウマチの状態だけでなく、感染症や全身状態を確認します。
胸部CTは、すべての患者さんに一律に行う検査ではありません。過去の肺病変、胸部X線の異常、咳や息切れ、結核の既往、間質性肺疾患が疑われる場合などに必要性を判断します。
長久手クリニックには16列CTがあり、必要と判断した場合には院内で胸部CTを行うことができます。CT画像は、外部の放射線科専門医による読影を含めたダブルチェック体制です。院内で対応できる範囲を超える検査や治療が必要な場合には、高次医療機関と連携します。
自己注射の練習と治療継続
自己注射と聞くと、「自分にはできないと思う」と話される方は少なくありません。
当院では、注射器の持ち方、注射する部位、保管方法、注射後の確認、使用済み注射器の扱いなどを説明します。
ご自身で注射できる自信がつくまで、院内で看護師の見守りのもと練習していただけます。80歳代の方でも、ご自身で注射されています。
手指が動かしにくい方、視力に不安がある方、ご家族と一緒に方法を確認したい方についても、実際に治療を続けられる方法を一緒に確認します。
お薬手帳、現在使用している注射薬の名称が分かるもの、過去の血液検査や画像検査の結果、紹介状などがあれば診察時に確認します。
生物学的製剤の導入を検討している方、現在の治療で効果が不十分な方、生物学的製剤を使用中で治療継続や転院を検討している方、自己注射に不安がある方は、リウマチ・膠原病外来でご相談いただけます。
リウマチ・膠原病外来の診療予約 関節リウマチ、生物学的製剤、自己注射、治療継続の相談生物学的製剤の副作用と使用中の注意点
生物学的製剤は高い治療効果が期待できる一方で、薬剤ごとに確認すべき副作用があります。
薬剤ごとに副作用の特徴が異なります。特定の生物学的製剤であれば感染症が起こらないということではありません。
発熱、咳、息苦しさ、強いだるさ、食事が取れない、広がる皮疹、続く腹痛や便通異常などがあるときは、予定日であっても注射を行わないでください。当院へ連絡、または受診をお願いいたします。
IL-6を抑える薬では、感染症があっても発熱やCRP上昇が目立ちにくい場合があります。検査値が高くなくても、普段と違う症状がある場合にはご連絡ください。
強い呼吸困難、意識状態の変化、顔や喉の腫れなどがある場合は、通常の診療予約を待たず、救急要請を検討してください。
生物学的製剤の薬剤費を見るときの注意点
生物学的製剤の費用は、使用する薬剤、用量、投与間隔、自己負担割合、高額療養費制度などによって異なります。
この記事では、点滴製剤やシリンジ製剤を含めず、ペン型、オートインジェクター、オートクリックスなどの自動注入型製剤で計算しています。
掲載した費用は、導入後の標準的な継続投与を4週間分に換算したものです。シムジアの導入期、シンポニー100mg、アクテムラの週1回投与など、投与量や投与間隔が異なる場合には金額も変わります。
実際の窓口負担には、薬剤費以外に診察料、検査料、処方箋料、調剤料などが加わります。また、自己注射の説明、安全管理、アルコール綿の提供、使用済み注射器の回収・廃棄などを含む在宅自己注射指導管理料などが加わります。
高額療養費制度、付加給付、医療費助成などによって、実際の自己負担が記事内の3割負担額より少なくなる場合があります。薬価は改定されるため、具体的な費用は実際に処方する製品、用量、投与間隔、患者さんの自己負担割合を確認して説明します。
まとめ
関節リウマチの生物学的製剤は、最初から8種類を同じように並べて考えるより、まずTNFを抑える薬と、TNF以外を標的にする薬に分けて考えると分かりやすくなります。
当院の約1年間の処方構成では、TNFを抑える薬が58%、TNF以外を標的にする薬が42%でした。
同じ期間の受診・処方機会を単位としてMTXの同時処方率をみると、TNF阻害薬では70.7%、TNF以外の生物学的製剤では16.8%でした。TNF阻害薬の集計には、乾癬性関節炎に対して使用したアダリムマブBSの処方が一部含まれています。患者さんの人数や薬剤の優劣を示す数字ではありませんが、当院における実際の併用状況の違いが表れています。
メトトレキサートを使用できる患者さんに生物学的製剤を初めて導入する場合、別の薬を優先すべき理由がなければ、当院ではまずアダリムマブBSまたはエタネルセプトBSを検討しています。
効果が不十分な場合には同じTNFのグループ内で変更することがあります。一方、メトトレキサートを併用しにくい場合、感染症や合併症を考慮したい場合、同じグループ内の変更では十分な効果が期待しにくい場合には、トシリズマブやアバタセプトなどへ変更します。
シンポニーは注射回数を少なくしたい方、シムジアは妊娠を希望する方や妊娠中も抗TNF治療を必要とする方など、その他の製剤にもそれぞれの役割があります。
薬の変更は治療の失敗ではありません。効果、副作用、合併症、費用、注射の続けやすさを確認しながら、その患者さんに合う薬を探していくことが関節リウマチ治療の一部です。
今回掲載した院内処方データの集計期間は、2025年7月7日から2026年7月6日までです。
生物学的製剤の処方割合は、関節リウマチに対して処方した皮下注射型生物学的製剤を対象としています。先行品とバイオシミラーは一般名ごとにまとめ、薬剤ごとの標準的な投与量と投与間隔をもとに処方構成比を算出しました。JAK阻害薬などの内服薬と、関節リウマチ以外に使用した自己注射薬は含めていません。
メトトレキサート(MTX)の同時処方率は、患者さんの人数ではなく、受診・処方機会を単位として算出しました。同じ患者さんの処方が複数回含まれている可能性があります。
TNF阻害薬のMTX同時処方率には、乾癬性関節炎に対して処方したアダリムマブBSが一部含まれています。当院では、乾癬性関節炎にアダリムマブBSを使用する場合、MTXを併用していないことが多いため、対象疾患の違いもMTX同時処方率に影響しています。
今回使用したデータからは、患者さんを継続して追跡できる固定の匿名IDや、年齢・性別を確認できないため、患者単位、年齢別、性別の解析は行っていません。
これらの数値は、当院における一定期間の処方状況をまとめたものです。特定の薬剤を推奨するものではなく、薬剤の効果や安全性の優劣を示すものでもありません。
薬価、適応、用法・用量、注意事項は改訂される場合があります。実際の治療では、最新の薬価と電子添文、患者さんごとの状態を確認します。
浅井 昭雅(医師・博士(医学)・日本リウマチ学会認定リウマチ専門医・指導医・日本腎臓学会認定腎臓専門医)




