皮疹と筋肉痛から気づく筋炎・皮膚筋炎|自己抗体から自然歴を考える|長久手クリニック
筋炎や皮膚筋炎は、ひとつの病名だけで経過を説明しきれない病気です。
実際の診療では、「筋力が明らかに落ちた」というよりも、手の甲やまぶたの皮疹、太ももや二の腕の筋肉痛、階段の上りにくさ、しゃがんだ姿勢から立ち上がりにくい、といった症状をきっかけに相談されることがあります。
最近では、AIで皮膚の写真を確認したことをきっかけに、「これは普通の手荒れではなく、膠原病や皮膚筋炎の皮疹かもしれない」と考えて受診される方もいます。AIの判断だけで診断がつくわけではありませんが、特にゴットロン徴候のように写真で比較的わかりやすい皮疹では、患者さん自身が異変に気づき、診断につながるきっかけになることがあります。
「筋炎」や「皮膚筋炎」と調べると、急速に進行する、命に関わることがある、間質性肺炎を合併することがある、といった情報を目にして、不安になる方もいるかもしれません。
たしかに、筋炎や皮膚筋炎の中には、肺の病気が急速に進むタイプや、強い筋力低下、飲み込みにくさ、呼吸筋の障害をきたすタイプがあり、早期に専門的な治療が必要になることがあります。
しかし、筋炎や皮膚筋炎のすべてが急激に進行し、すぐに命に関わるわけではありません。
大切なのは、「筋炎」という名前だけで一括りにせず、どのタイプの筋炎が疑われるのかを知り、その自然歴を正しく理解することです。
筋炎には、皮疹が目立つタイプ、肺に注意が必要なタイプ、太ももや二の腕の筋肉痛が目立つタイプ、筋力低下が強く出るタイプ、薬剤歴が手がかりになるタイプ、治療に反応しにくいタイプなどがあります。
この「病気がどのような経過をたどりやすいか」を、医学的には自然歴といいます。
自然歴を予測することは、治療の強さを決めるうえで重要です。
生命に関わる可能性がある場合や、肺・心臓・腎臓など重要な臓器に障害が出る可能性がある場合には、副作用に注意しながらも、早い段階からしっかりとした治療が必要になることがあります。
一方で、自然歴が比較的落ち着いており、重要な臓器への影響が少ないと考えられる場合には、過剰に強い治療を急がず、副作用とのバランスを見ながら方針を考えることができます。
つまり、筋炎診療では「今の症状」だけでなく、「将来どのような経過をたどる可能性があるか」を予想しながら治療を考えることが大切です。
そして近年、この見通しを考えるうえで重要になっているのが、自己抗体です。
筋炎は、医学の進歩によって、自己抗体の種類から自然歴をある程度予測できるようになってきた病気です。
昔は同じ「多発筋炎」や「皮膚筋炎」と考えられていた患者さんの中にも、現在では自己抗体によって、肺に注意すべきタイプ、筋力低下が強く出やすいタイプ、治療に反応しにくいタイプ、悪性腫瘍との関連に注意すべきタイプなどを分けて考えるようになっています。
自己抗体は、単に「陽性か陰性か」を見る検査ではありません。
自然歴を予測し、治療の強さや専門医療機関へ紹介するタイミングを考えるための、大切な情報です。
筋炎というと、筋肉の病気という印象が強いかもしれません。
しかし、実際には、筋肉の症状よりも先に、皮膚の症状がきっかけで皮膚筋炎や膠原病が見つかることがあります。
特に、手の甲側の指関節に赤みや盛り上がりが出るゴットロン徴候は、写真で見ると比較的わかりやすい皮疹のひとつです。
最近では、AIで皮膚の写真を確認したことをきっかけに、「これは普通の手荒れではなく、膠原病や皮膚筋炎の皮疹かもしれない」と考えて受診される方もいます。AIの判断だけで診断がつくわけではありませんが、患者さんが自分の皮疹に気づき、診断につながるきっかけになることがあります。
気になる皮疹が続く場合や、太もも・二の腕の筋肉痛、階段の上りにくさ、しゃがんだ姿勢から立ち上がりにくいといった症状を伴う場合には、街の身近なリウマチ・膠原病専門医のいるクリニックとして、気軽にご受診ください。
これらは、湿疹、かぶれ、乾燥、日焼け、花粉症、手荒れ、運動不足による筋肉痛などと間違われることがあります。
もちろん、皮疹や筋肉痛の多くは一般的な皮膚疾患や整形外科的な痛みです。
しかし、長引く皮疹、特徴的な部位に出る皮疹、太ももや二の腕の筋肉痛を伴う皮疹、階段の上りにくさやしゃがんだ姿勢から立ち上がりにくい症状、咳や息切れを伴う皮疹では、膠原病や皮膚筋炎を考えることがあります。
手荒れや湿疹のように見えても、まぶた・手指の関節・胸元・背中などに特徴的な皮疹が続く場合には、膠原病や皮膚筋炎の視点で確認することがあります。
実際の外来では、はっきりした筋力低下よりも、太ももや二の腕の筋肉痛、階段が上りにくい、しゃがんだ姿勢から立ち上がりにくい、といった訴えがきっかけになることもあります。
皮疹・筋肉痛のご相談はこちら皮膚筋炎では、いくつか特徴的な皮膚症状があります。
代表的なものが、ヘリオトロープ疹とゴットロン丘疹・ゴットロン徴候です。
ヘリオトロープ疹は、まぶたの周囲に赤紫色の腫れぼったい紅斑が出る皮疹です。花粉症、かぶれ、化粧品による皮膚炎と間違われることがあります。
ゴットロン丘疹・ゴットロン徴候は、手の甲側の指関節、肘、膝などに出る赤みや盛り上がりです。手荒れ、湿疹、しもやけのように見えることもあります。
首の前から胸元にかけて赤みが出るVネック徴候、首の後ろから肩・背中にかけて赤みが出るショール徴候、頭皮の赤みやかゆみなども、皮膚筋炎を考える手がかりになります。
皮膚筋炎でみられる代表的な皮膚症状については、日本皮膚科学会の皮膚科Q&Aが参考になります。
皮膚筋炎では、皮疹の形や出る場所が、自己抗体や病型を考えるヒントになることがあります。
たとえば、手荒れのように見える「メカニックスハンド」は、抗ARS抗体症候群でみられることがあります。
抗ARS抗体症候群では、筋炎だけでなく、間質性肺炎、関節炎、レイノー現象などに注意が必要です。
また、手のひら側の指関節周囲に、鉄棒まめのような紫紅色の斑や丘疹がみられることがあります。
これは逆ゴットロン徴候と呼ばれ、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎と関連することがあります。
皮疹は見た目の問題だけではありません。
どのような皮疹が、どこに、どのように出ているかによって、疑うべき自己抗体や、注意すべき自然歴が変わることがあります。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の皮疹については、MBL 臨床検査薬の解説ページも参考になります。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎は、筋炎の中でも特に肺に注意が必要な病型です。
「筋炎」という名前がついていますが、このタイプでは、筋力低下やCK高値があまり目立たないことがあります。
むしろ、手荒れのような皮疹、指の関節まわりの赤み、手のひら側の指関節にできる鉄棒まめのような皮疹、皮膚潰瘍、発熱、咳、なんとなく息切れする、といった症状がきっかけになることがあります。
このため、最初は皮膚の病気や風邪のように見えることもあり、疑うのが難しい病型です。
しかし、このタイプでは間質性肺炎が急速に進行することがあります。
つまり、筋肉の症状が軽く見えても、病気全体が軽いとは限りません。
手荒れのような皮疹が続いている方で、咳や息切れ、発熱を伴う場合には、肺の状態まで確認することが重要です。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎については、長久手クリニックのある愛知県でも馴染み深い木曽川周辺での集積を示した疫学研究や、秋から冬に発症が多い可能性を示した研究があります。
ただし、木曽川そのものが原因と証明されたわけではありません。感染症や水辺の環境など、何らかの環境因子が関係している可能性が考えられています。
そのため、特に秋から冬にかけて、手荒れのような皮疹が続き、咳や「なんとなく息切れする」といった症状がある場合には、皮膚だけでなく肺の状態まで確認することが大切です。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎が疑われる場合には、早期から専門的な免疫抑制療法や入院管理が必要になることがあります。
そのため、疑わしい場合には、専門医療機関との連携が重要です。
以前の筋炎診療では、筋力低下やCK高値をきたす病気を、大きく「多発筋炎」と「皮膚筋炎」に分けて考えることが多くありました。
・皮膚筋炎に特徴的な皮疹があれば皮膚筋炎。
・皮疹がなく、筋力低下やCK高値が中心であれば多発筋炎。
この分類は、筋炎を理解するうえで今でも重要です。
しかし、現在の視点では、この分類だけでは不十分なことがあります。
昔なら「多発筋炎」と診断されていた患者さんの中に、実際には自然歴や治療反応性が異なる病気が含まれていた可能性があるからです。
封入体筋炎は、通常の免疫治療に反応しにくく、ゆっくりと筋力低下が進行し、歩行や手指の動作に支障をきたすことがあります。
免疫介在性壊死性ミオパチーという病型もあります。この中には、抗SRP抗体や抗HMGCR抗体と関連するものがあります。
抗HMGCR抗体関連の病型では、スタチンなどの薬剤歴が関係することがありますが、通常の「薬を中止すれば改善する筋肉痛」とは異なり、自己免疫性に筋障害が続き、免疫治療が必要になることがあります。
問題は、「多発筋炎」という診断名が間違いということではありません。
問題は、従来の大きな分類だけでは、治療に反応しにくい病型、長期的な筋力低下に注意すべき病型、薬剤歴や自己抗体が重要になる病型を、同じ箱の中に入れてしまう可能性があることです。
筋炎の分類は、時代とともに変化してきました。
1975年には、多発筋炎と皮膚筋炎を中心とした診断基準が提唱されました。
その後、封入体筋炎が、多発筋炎や皮膚筋炎とは異なる疾患として整理されるようになりました。
さらに、免疫介在性壊死性ミオパチーという病型が整理されました。この病型では、筋病理で多数の壊死筋線維を認める一方、炎症細胞浸潤が比較的乏しいことがあります。
その後、抗SRP抗体や抗HMGCR抗体など、病型と関係する自己抗体が明らかになってきました。
また、抗ARS抗体症候群、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎、抗TIF1γ抗体陽性皮膚筋炎など、自己抗体ごとの特徴も整理されてきました。
このように、筋炎の分類は、皮疹や筋力低下を中心に考える時代から、筋病理を重視する時代、さらに自己抗体を組み合わせて自然歴を考える時代へと変化してきました。
ここから先は少し専門的です。詳しく知りたい方だけ読めるように、折りたたみ形式にしています。
抗ARS抗体
筋炎、間質性肺炎、関節炎、レイノー現象、メカニックスハンドと関連することがあります。
肺の病気が慢性的に経過することもあり、長期的なフォローが重要です。
抗MDA5抗体
皮膚の所見だけで、筋力低下が目立たないことがあり、診断が難しいです。
急速に進行する間質性肺炎にとにかく注意が必要です。
抗TIF1γ抗体
皮膚筋炎でみられることがあり、成人では悪性腫瘍との関連に注意します。
抗Mi-2抗体
典型的な皮膚筋炎の皮疹や筋炎と関連することがあります。
比較的治療反応性がよいとされることもあります。
抗SRP抗体(日本では保険検査で検査できない)
免疫介在性壊死性ミオパチーと関連することがあります。
CK高値や強い筋力低下をきたすことがあり、筋力回復に時間がかかることがあります。
抗HMGCR抗体(日本では保険検査で検査できない)
免疫介在性壊死性ミオパチーと関連する自己抗体です。
スタチン内服歴と関連することがありますが、通常のスタチンによる筋肉痛とは異なり、スタチンを中止しても筋力低下やCK高値が続く場合があります。
自己抗体は、筋炎の病型や自然歴を考えるうえで非常に重要です。
しかし、自己抗体にも限界があります。
現在測定できる筋炎関連自己抗体で、すべての筋炎を説明できるわけではありません。文献や検査方法によって割合は異なりますが、筋炎の患者さんの約3割では、既知の自己抗体が陰性ともいわれています。
また、自己抗体の中には、抗HMGCR抗体のように保険診療で手軽に測定しにくいものもあります。
そのため、自己抗体が陰性であっても、太ももや二の腕の筋肉痛、階段の上りにくさ、しゃがんだ姿勢から立ち上がりにくい症状、特徴的な皮疹、CK高値、嚥下障害、肺病変などから筋炎が疑われる場合には、筋炎を否定せずに評価を続けることが大切です。
このような場合には、筋生検が診断に重要になることがあります。
当院では、検査が陰性であっても、症状や経過から筋炎が疑われる場合には、高次医療機関へご紹介します。
紹介先では、筋電図、筋MRI、筋生検などを含めて、どのタイプの筋炎かをより詳しく評価していきます。
当院で筋炎と診断した患者さんは大学病院などの高次医療機関へご紹介しています。
筋炎の中には、早期から専門的な免疫抑制療法や入院管理が必要になる病型があります。
そのため、診断の入口となる評価を行ったうえで、治療方針の決定や病型の詳しい評価は高次医療機関で行うことが重要です。
紹介先では、筋電図、筋MRI、筋生検などを含めて、どのタイプの筋炎かをより詳しく評価し、治療方針を検討します。
一方で、治療方針が定まり症状が安定した後は、通院のしやすさも大切です。
当院は夕方や土曜日の診療にも対応しているため、大学病院と連携しながら、定期的な採血、薬剤継続、全身状態の確認などの維持診療を担当することがあります。
次のような症状がある場合は、筋炎や膠原病の評価を考えます。
これらの症状があるからといって、必ず筋炎や皮膚筋炎というわけではありません。
しかし、特徴的な皮疹が長引く場合、太ももや二の腕の筋肉痛が続く場合、階段の上りにくさやしゃがんだ姿勢から立ち上がりにくい症状がある場合、咳や息切れを伴う場合、抗核抗体や筋炎関連自己抗体の異常を指摘されている場合には、膠原病の視点から確認することが重要です。
筋炎が疑われる場合、以下のような点を確認します。
抗核抗体や筋炎関連自己抗体、皮疹、筋肉痛、筋力低下、CK高値、肺病変の有無などを確認し、筋炎や膠原病の可能性を評価します。
必要に応じて、高次医療機関へご紹介します。
紹介先では、筋電図、筋MRI、筋生検などを含めて、どのタイプの筋炎かをより詳しく評価していきます。
筋炎は、単なる筋肉痛や疲労とは異なり、免疫の異常によって筋肉や全身に影響が出る病気です。
以前は、多発筋炎、皮膚筋炎という大きな分類で考えられることが多かった病気ですが、現在では、自己抗体や病型ごとの自然歴を考えることが重要になっています。
自己抗体は、診断名をつけるためだけの検査ではありません。
どのような経過をたどりやすいか、どの臓器に注意すべきか、治療をどの程度しっかり行う必要があるかを考えるための手がかりです。
一方で、自己抗体が陰性でも筋炎を否定できるわけではありません。
検査結果だけでなく、実際の症状、太ももや二の腕の筋肉痛、階段やしゃがむ動作のしづらさ、CKの推移、皮疹、肺の状態をあわせて判断することが重要です。
筋炎や皮膚筋炎のすべてが急速に進行するわけではありません。
しかし、一部には肺病変や強い筋力低下に注意が必要な病型があります。
そのため、皮疹、筋肉痛、筋力低下、自己抗体を手がかりに、どのタイプの筋炎が疑われるのかを早めに整理することが重要です。
特にゴットロン徴候のように、写真で見ると比較的わかりやすい皮疹は、患者さん自身が異変に気づくきっかけになることがあります。AIの発達により、皮膚の変化に気づいて受診につながる場面も増えていますが、最終的には診察、血液検査、画像検査などを組み合わせて判断します。
「年齢のせい」「運動不足」「手荒れ」「湿疹」と思っていた症状の中に、筋炎や膠原病が隠れていることがあります。
太ももや二の腕の筋肉痛、階段の上りにくさ、しゃがんだ姿勢から立ち上がりにくい症状、特徴的な皮疹が続く場合には、気軽にご受診ください。
長久手クリニックでは、街の身近なリウマチ・膠原病専門医のいるクリニックとして、診断の入口となる評価を行います。必要に応じて、大学病院などの高次医療機関へご紹介します。
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