リウマチ薬が3種類目に…これって普通?最新論文が示す「お薬変更」のリアルと前向きな選択|長久手クリニック 内科・腎臓内科・リウマチ科
「知り合いはずっと同じ薬なのに、私はもう3つ目。私の体、おかしいのかな?」
「先生の治療、本当にこれで大丈夫んだろうか……」
治療のステップアップの中で、こうした切実な不安を伺うことがよくあります。
長久手クリニックも開院して約1年10ヶ月が経過(2026年2月現在)し、関節リウマチの高度治療の導入だけではなく、お薬の変更が必要な患者さんが増えてきました。
実はお薬を変更しながら「その方に最適な治療」を探していくプロセスは、決して珍しいことではありません。
当院では学会のガイドラインにのっとり、まずは土台となるメトトレキサートが開始できるかを検討し、効果が不十分な場合に生物学的製剤などの「高度な治療薬」へと進みます。ただ、「最新のお薬を始めたから、これで全て解決」とはいかないのが、関節リウマチの治療の難しいところでもあります。
こうしたご不安に対し、2026年2月11日に発表された最新の論文(Wipfler et al. 2026)の内容が、皆さんの安心につながる素晴らしい知見でしたのでお伝えしたいと思います。
この研究は、20年間にわたる約3万人もの膨大な診療記録(リアルワールドデータ)を分析した非常に規模の大きなもので、高度な治療を続けている方が直面する「お薬の変更」のリアルな実態を浮き彫りにしています。
「3種類目」に進むのは、特別なことではありません
高度な治療(生物学的製剤など)を始めても、途中で効果が弱まったり、相性が合わなかったりすることはあります。
この論文によると、高度な治療を開始した方の約11%(約10人に1人)が、3種類目のお薬を必要とする段階に到達しています。
つまり、お薬を切り替えていくことは、決して「治療の失敗」ではなく、関節リウマチの治療において約10人に1人に起こり得る標準的なプロセスなのです。
「1剤目で終わる人」と「3剤目まで行く人」の差はどこにある?
「最初から違う薬を選んでいれば、3つ目まで進まずに済んだのでは?」と後悔される方もいますが、論文のデータはそれを明確に否定しています。
1剤目でピタッと安定した人も、3剤目まで変更が必要だった人も、最初に選んでいたお薬の種類(内訳)は驚くほど一致していました。
たとえば、最も実績のある「TNF阻害薬(エタネルセプトなど)」から治療を始めた割合は、どちらのグループも全く同じ(約4割)でした。
もし「特定のお薬が優れていて、特定のお薬が劣っている」のであれば、順調な人とそうでない人で、最初に使った薬の種類に偏りが出るはずです。しかし、結果は同じでした。
このデータが意味するのは、3つ目のお薬が必要になった原因は、「最初のお薬選びが間違っていたから」でも「あなたの体質が悪いから」でもなく、純粋に「そのお薬があなたの体のカギ穴に合うかどうか」という相性の問題だったということです。ですから、誰も自分や主治医を責める必要はありません。
どのように「3剤目」にたどり着くのか?(切り替えのパターン)
リウマチ治療には、科学的な根拠に基づいた「王道の流れ」があります。今回の論文では、3剤目に至った患者さんがどのような順番でお薬を切り替えてきたか(移行パターン)も分析されています。
【よくあるお薬の切り替えルート】
- パターンA:同じタイプで別のお薬を試すルート
TNF阻害薬(1種類目) → 別のTNF阻害薬(2種類目) → non-TNF製剤など - パターンB:早めにタイプ(作用点)を変えるルート
TNF阻害薬 → non-TNF製剤(アクテムラ、オレンシア等) → 別のnon-TNF製剤
※TNF阻害薬:エンブレル、レミケード、ヒュミラなど、リウマチ治療の歴史が長く実績豊富なタイプ。
このように、作用するポイントを変えながら「あなたにとっての正解」を突き詰めていくのが、現代のリウマチ治療の形です。最初から王道の手順を一つずつ踏んでいるからこそ、もしお薬を変えることになっても、その経過そのものが次の選択を成功させるための貴重なデータになり、あなたにぴったりの治療を見つけるための確実な一歩になるのです。
数値に表れない「負担」についても調査されています
今回の研究が優れているのは、単にお薬の切り替え率を調べただけではない点です。
この論文では、患者さん自身が感じる「病気の負担」についても、20年分の膨大なデータを詳細に集計しています。
データによると、お薬の変更を繰り返す時期の患者さんは、社会的な状況にかかわらず、非常に大きな「病気の重み」を背負いながら生活している実情が明らかになりました。中でも、多くの患者さんが共通して訴えていたのが、数値には表れにくい「強い疲労感」でした。
「疲労感」はあなただけではありません
「痛みは引いたのに、どうしても体がだるい」……。これもあなただけではありません。
論文でも、高度な治療薬を切り替えながら最適な治療を探している段階の患者さんにとって、この「疲労感」こそが解決すべき最大の課題として挙げられています。
医学が進歩した現代でも、この疲労感を完全に消し去ることは世界的に見てもまだ難しいです。
「薬を変えても疲れが取れないのは自分のせい?」と責める必要はありません。
これは関節リウマチの治療において、私たちが共に取り組むべきテーマなのです。
3種類目のお薬の患者さんへ:「折り合い」(受容)の重要性
論文のデータからはもう一つ、重要な事実が浮かび上がっています。
3種類目のお薬を使用している患者さんは、そうでない患者さんに比べ、現在の健康状態への「満足度」が統計的に有意に低い傾向にあるという点です。
これは、治療が高度になるほど「次こそは完璧に治るはず」という期待が大きくなり、残ったわずかな痛みや違和感に対するストレスが強まってしまうからかもしれません。
もちろん私たちは医師は最善を尽くしますが、時には「ある程度の不自由はあっても、自分のやりたいことができているなら、今の70〜80点の状態でよしとする」といった、良い意味での受容(折り合いをつけること)が必要かもしれません。
なぜなら、どれほど医学が進歩しても、「疲労感」そのものを取り除くようなお薬や治療法は、まだ世界的に見ても確立されていないからです。
すべてを医療に委ねるのではなく、適度な運動や睡眠の改善、および「完璧でなくても大丈夫」という心理的なゆとり。こうした多角的な視点を持って、今の自分に合格点を出していくのが大切なのかもしれません。
「かかりつけ医」として共に歩むために
この論文でわかるように、関節リウマチの治療とは、ご自身に合うお薬を求めて試行錯誤を繰り返していくプロセスです。
長久手クリニックでは街のクリニックとして、このプロセスを一歩ずつ進むことを大切にしており、いくつかの診療方針を設けております。
● セカンドオピニオンについて
当院では、治療方針のみのご相談(セカンドオピニオン)には対応しておりません。
一度お会いするだけでは正確な把握やお伝えができませんし、すべての過程において責任を持って継続的に診させていただく「かかりつけ医」でありたいと考えているからです。
● 転医をご希望の方へ
今までの治療の経緯を正しく把握するため、これまでの検査データすべてとお薬手帳をお持ちくださいね。
● 高度な診断が必要な場合
最近は大学病院の専門外来で検査しても「原因がはっきりしない」というケースのご相談が増えております。当院は街のクリニックであり、CTはありますがMRIはなく、各分野の専門家(神経内科専門医など)も常駐しておりません。そのため、大学病院でわからなかった「原因」を当院で見つけ出すことは難しいです。
しかし、私たちは「原因不明だから終わり」という選択はさけたいと思っています。お薬のリスクを十分にご理解いただいた上で、それでも「現状を少しでも良くしたい」「前向きに治療をしたい」と希望される方には、長期的なデータが豊富な生物学的製剤を中心に、治療の開始を真摯に検討いたします。原因が経過の中で正体を表してくることもありますので、粘り強く経過観察し診断につなげていきます。また、高度な対応が必要な際は、愛知医科大学病院へと速やかに連携します。
お薬の変更は、納得できる毎日への一歩です
お薬を変える時期は、しんどい時だと思います。
しかし、どうか自分を責めないでください。お薬の変更は、今の辛さをガマンしすぎず、より自分らしい生活を手に入れようと前向きに一歩踏み出した証拠です。
皆さんが少しでも楽に過ごせる日を増やせるよう、一番いい方法を一緒に探していきたいと思っています。
浅井 昭雅 (医師 医学博士 日本リウマチ学会認定リウマチ専門医・指導医)
参照:Wipfler K, et al. Disease Burden, Patient Experiences, and Unmet Needs in Those With Rheumatoid Arthritis Initiating a Third Advanced Therapy: Insights From 20 Years of Real-World Data. ACR Open Rheumatol. 2026. DOI: 10.1002/acr2.70180
長久手クリニック 内科・リウマチ科・腎臓内科
浅井 昭雅(あさい あきまさ) 浅井 奈央(あさい なお)
・日本リウマチ学会認定リウマチ専門医・指導医
・日本腎臓学会認定腎臓専門医
〒480-1111 愛知県長久手市山越115番地
駐車場完備(日進市・名古屋市名東区・みよし市・尾張旭市・瀬戸市・東郷町・豊田市方面からもアクセス便利です)



