蛋白尿と血管内皮バリア「グリコカリックス」の重要性|長久手クリニック 内科・腎臓内科・リウマチ科
腎臓内科の診療において、もっともお伝えするのが難しいと感じているのは、「自覚症状がない時期の腎臓管理の重要性」です。
腎臓病はかなり進行するまで痛みなどのサインを出しません。私自身がどのように皆様にお伝えしていいのかわかっていません。そこで原点に立ち返って私が愛知医科大学の大学院で行ってきた研究テーマをお伝えすることで、少しでもその重要性が伝わればと考えています。
「なぜ、今のうちに腎臓を守る必要があるのか」。その科学的な根拠を知っていただくことが、将来の健康を守る納得感に繋がると信じているからです。
血液が最初に触れるバリア「グリコカリックス」
腎臓で尿を作るフィルター(糸球体)は、非常に繊細な血管の集合体です。1日に約160Lもの水分を濾過しながら、体に必要なタンパク質が漏れ出さないよう、サイズや電気的な反発によって精密にコントロールされています。
血液を濾過する際、もっとも内側で血液と直接触れる部分には、「グリコカリックス(血管内皮細胞表面層)」という網目状のバリアが存在します。
血液を濾過するフィルターの最前線である血管内皮細胞の表面は、電子顕微鏡でも確認できる繊細な「グリコカリックス」に覆われています。これがタンパク質の漏出を防ぐ重要な障壁となっています。主成分はヒアルロン酸などで、例えるなら血管の内側に生えそろった「ふかふかの芝生」のようなものです。この層が、大事なタンパク質が漏れ出すのを防ぐとともに、血流による摩擦や炎症から血管を守るクッションの役割を果たしています。
研究で明らかになった「目に見えない段階」の変化
私が愛知医科大学の大学院で行ってきた研究テーマ(Physiol Rep. 2021)では、このヒアルロン酸バリアが損なわれることで、腎臓にどのような影響が出るかを検証しました。
図:血管内皮バリアの損傷と再生のメカニズム血管内皮を覆うヒアルロン酸が酵素などで剥がれ落ちると、細胞の形が保たれていても蛋白尿が発生します。一方で、これを補充・再生させることができれば、蛋白尿を抑制できる可能性があります。
研究の結果、明らかになった事実があります。従来の顕微鏡検査で細胞の形が正常に見える段階であっても、この微細な「ヒアルロン酸バリア」が剥がれるだけで、蛋白尿が発生するということです。
つまり、蛋白尿というサインは、将来的な構造の破壊が起こるずっと手前で、血管を守る最前線のバリア機能が低下し始めていることを教えてくれているのです。
臨床疾患との関わり:IgA腎症や妊娠高血圧腎症
この血管バリアの損傷は、実際の多くの病態と密接に関わっています。例えば、日本人に多いIgA腎症や、血管内皮障害が病態の核心である妊娠高血圧腎症(子癇前症)などです。
IgA腎症のような慢性的な経過をたどる疾患においても、この血管バリアを健全に保つことが、腎機能を長期的に守るための重要な治療ターゲットになると考えられています。
また、妊娠高血圧腎症においては、血管を守る因子(VEGFなど)が阻害されることで全身の血管バリアが損なわれ、蛋白尿が生じることが、私が大学院で行ってきた研究(Physiol Rep. 2021)でも示唆されています。
4. 腎臓を守ること、蛋白尿を減らすことは、脳や心臓を守ること
「なぜ、腎臓を大切にする必要があるのか」――それは、腎臓を守り、蛋白尿を減らすことが血管全体、ひいては脳や心臓を守ることになるからです。
腎臓の血管内皮にあるバリア機能は、実は脳や心臓の血管にも共通して備わっています。腎臓は全身の血管の状態を映し出す「窓」のような存在です。腎臓でこのバリアが損なわれ、蛋白尿が出ている状態は、全身の血管コンディションにも何らかの影響が及んでいる可能性を示唆しています。
蛋白尿を減らす治療をしっかりと行うことは、単に腎臓の数値を良くするだけではありません。将来的な脳梗塞や心筋梗塞のリスクを管理し、健康な生活を長く維持するために、もっとも基本的で重要なステップなのです。
- 腎臓の管理: 血管全体の健全性を維持するための重要な指標になります。
- 脳・心臓の保護: 蛋白尿を減らすことで、将来の大きな血管事故を防ぐことに繋がります。
腎臓病は自覚症状がないからこそ、科学的な根拠に基づいた理由を持って、早めの対策を始めていただきたいと考えています。健診の結果で蛋白尿を指摘された方、将来の血管の健康が気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。皆様の健康を、腎臓と血管の視点から支えてまいります。
浅井 昭雅 (医学博士)
- 日本腎臓学会認定 腎臓専門医
- 日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医・指導医
Asai A, et al. Roles of glomerular endothelial hyaluronan in the development of proteinuria. Physiol Rep. 2021 Sep;9(17):e15019. doi: 10.14814/phy2.15019. PMID: 34472715; PMCID: PMC8411502.
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浅井 昭雅(あさい あきまさ) 浅井 奈央(あさい なお)
・日本リウマチ学会認定リウマチ専門医・指導医
・日本腎臓学会認定腎臓専門医
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